2015年8月30日 医療安全管理者・病院管理者向け研修 「院内事故調査の手法を学ぶ」
知識を身につけ、ロールプレイで遺族との対話を体験
スライド資料 講義1「なぜ医療法改正か(事故調査の目的)」(佐和貞治)
講義2「事故後の初期対応について」(松村由美)
講義3「M&M カンファレスの意義と進め方」(小泉俊三)
講義4「報告書作成について」(松村由美)
講義5「医療事故調査等支援団体の目的」(松村由美)
検証することを怖れない
医療事故調査制度の施行は1ヵ月後に迫った。現場からは、「まだ準備が進んでいない。何より、支援団体の業務内容もまだ決まっていない」などの不安の声が聞こえる。
この状況と似たようなことを以前も経験した。特定機能病院の医療事故報告義務が定められたときのことである。どの事案が報告制度に合致するのだろうか、と院内で話し合われた。初めてのことや、わからないことに直面すると、ひとは漠然とした不安を感じる。ちょうど、患者さんが、自分が経験したことがない手術の説明を受けるときに不安であるように。しかし、動き出してしまうと不安は減る。医療機能評価機構の報告制度はいまやしっかりと根付き、我々は他病院の事故から学ぶこともできるようになった。分析結果は詳細にまとめられており、利用する気になれば、活用方法はいくらでもある。
制度を成熟させるには時間をかけて育てることが必要になる。だから、今回も焦ることはないのだ、と思う。初めの第一歩を歩むときには怖がってはいけない。飛び込んでいくつもりでよいと思う。堂々と報告したらよいし、報告の判断という「小さな問題」にとらわれることは残念だ。私たちの理念はもっと大きいものである。医療をより安全で質の高いものにすることこそが目標なのだ。報告することは、きちんと検証するということである。検証することを怖れる必要はないのだ。この法律を機に検証方法も洗練されていけば、医療の質もさらに向上するだろう。(写真は講師の佐和貞治先生)
知識を得て、実際に行動すること
そのようなことを考えながらこの研修会を企画した。研修会のコンセプトは、わかりやすい具体的手順を参加者に示すこと、である。不安に対する処方せんは、知識を得ることと、実際に行動することである。だから、①知識を得るための講義形式と、②実際に行動するためのロールプレイ形式を組み合わせた研修を企画した。 講義は、なぜ医療法の改正が行われたのか、という歴史的な背景の説明から始まり、事故発生時の初期対応の手順、医療事故調査にも通じるM&Mカンファレンスの進め方を経て、報告書の書き方や支援団体との連携のあり方を取り上げた。(写真は講師の小泉俊三先生)
ロールプレイでは、遺族との対話を実際に体験してもらった。この法律で、本来、もっと話題になってよいのが遺族との対話であると思うが、報告の判断の部分だけがクローズアップされているのを筆者は残念に思っている。遺族とのコミュニケーションなくして、報告制度がうまくいくはずがない。死亡時に遺族に対して報告制度を説明しつつ、病理解剖や死亡時画像診断のお願いをする、ということがいかに難しいか。参加者はロールプレイを通じて、その難しさを感じたと思う。きちんとコミュニケーションを図ることのできる人材を育成していく必要を感じてもらったならばこのロールプレイは成功である。(写真は医師と患者遺族を演じるロールプレイの様子)
各地で支援の連携を
研修会開催にあたり、京都府医師会に共催として、会場の提供や職員のお手伝いを得た。実は、今回の講師もファシリテータもすべて京都のメンバーである。オール京都としての企画を他都道府県の方にも、みていただくというのが、隠された狙いであった。各地で、今後支援団体の連携が進んでいくと思われるが、何らかの参考になればありがたい。
当日は、午前と午後の部を合わせて計(のべ)144名の方にご参加いただいた。熱心に聴講していただいたこと、ロールプレイを真剣に演じてもらったことなど、この企画が成功したといえるならば、それはすべて参加の皆様のおかげである。(写真は講師の松村由美先生)