分科会A:行動目標4「医療関連感染症の防止」
テーマ「AMR対策・抗菌薬適正使用」
本分科会では現在日本の政府が国を挙げて取り組んでいるAMR対策を取り上げ、様々な場での実践の事例をご紹介いただきました。
最初に日馬先生からは日本を取り巻く薬剤耐性(AMR)の現状を紹介していただきました。今はAMRの問題は差し迫ったものには感じられないかも知れません。しかし黄色ブドウ球菌・大腸菌・肺炎球菌といった健常人でも感染を起こす菌の薬剤耐性の問題は確実に悪化しています。今対応しなければ私達の老後や子ども孫や子孫の世代にAMRに太刀打ちできなくなります。日馬先生はこの問題に今から、しかも動物や環境の分野の方々と手を取り合って立ち向かうことの必要性を伝えました。
次の演者は谷崎先生です。谷崎先生は三重県の名張市立病院という200床の病院で、総合診療科の医師として診療にあたりながら感染症対策にも取り組んでいます。谷崎先生はマンパワーや検査等のリソースの乏しいところでAMR対策である抗菌薬適正使用をすすめることが如何に困難であるかを話してくださいました。そのなかでも協調されていたのは病院幹部による支援です。診療報酬改定で抗菌薬適正使用チームの設置が議論されていますが、この追い風になることを期待しています。
次の演者の倉井華子先生は、静岡県でAMR対策を推進しています。静岡県の行政の方々、そして医師会の先生方と強力なタッグを組んで活動をすすめていますが、その過程を紹介していただきました。なにごともまずは人と人のつながりからです。限られたマンパワーをどこに注力すべきか慎重に選び、決めたら一気に突き進むことの重要性を示していただきました。
国立国際医療研究センターの赤沢先生は、総合病院における抗菌薬適正使用プログラム(ASP)における薬剤師の役割についてお話いただきました。カルバペネム系抗菌薬使用において、診療科医師へ一定の処方行動変容のきっかけとなったこと、ASP担当薬剤師と担当医師との役割分担および情報共有により、双方の負担軽減とAST活動の効率化ができたこと、薬剤師は抗菌薬適正使用支援の原動力・推進力となり、主治医の感染症診療の診療・治療プロセスへ能動的に支援し、感染症治療の最適化の一助となる役割があることをお話しいただきました。
佐々木先生からは微生物検査が検査室内で如何に行われているかの概要をお示しいただきました。検査技師と医師との間の円滑なコミュニケーションにより検査結果が生かされ、診療の改善につながることが示されました。このコミュニケーションの改善は今後設置が進められるASTのなかでも重要な要素の一つです。
AMR対策はまだまだはじまったばかりです。各地で取り組みがはじまっていますが、先行例が少ないため、何を行えば良いかわからないとの戸惑いの声も聞こえてきます。本日の内容が共有され、各地での実践に少しでも役に立てば幸いです。
技術支援部会 行動目標4代表 大曲 貴夫(国立国際医療研究センター)